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FIFTH DAY

 いつものように朝食の前にシャワーを済ませ、ホテルのレストランに降りていきました。レセプションにはパソコンが入っていて、内装などは近代的な印象を受けましたが、建物自体は古くレトロで、シックな木造のつくりのレストランは落ち着いた快い雰囲気。ゆくっりと朝食を取る事が出来ました。
 いつもより少しゆっくりして、AM9:30にチェック・アウト。テル博物館がAM10:00に開館なので、十分に間に合う時間です。昨日、博物館の前まで行っていたので、迷わずヴィルヘルム・テルの生まれ故郷とされるビュルグレン村にある博物館に到着。開館までまだ10分以上ありました。空は昨日の夕方同様、どんよりと曇っています。今日の天気は大丈夫でしょうか?博物館の隣には郵便局があり、ふたつの建物の前はちょっとした広場で、郵便バスの停留所になっていました。
 ほぼ定刻どおりにショートヘアの小柄な女性がやって来て、博物館の扉を開けました。彼女がここの館長でしょうか?とにかく私たちを入館させてくれました。日本語の案内書を受け取ります。博物館の前には数台の車が駐車しており、私は仕方なく車を二重駐車していましたが、彼女に駐車場は無いかと尋ねたところ、
「気にしないで。そのままで大丈夫よ。」とのことでした。
 バス停があるから、バスが来たらちょっと邪魔なんじゃないかなぁ…?
「あなた、英語を話すの?」
「はい…。」
 何かな?と思っていると、ウイリアム・テル序曲が流れ始め、英語の館内放送を流してくれました。地上階から1階、2階と順を追って説明してくれましたので、1990年に訪れた時とは比べ物にならない程、展示物について理解する事が出来ました。
 スイス建国の1291年、ウリ、シュヴィーツ、ウンターヴァルテンの三つの州が連合してオーストリアのハプスブルク家の支配から独立。その歴史的事実に基づいた伝説と数々の資料、古い文献や絵画、ボウガン等、様々なヴィルヘルム・テルについての品々が展示してあり、やっぱりここに来ると、彼は実在したのだと思わされます。アルトドルフの広場の彫像も、幾つかのモデルが有った事などが分かりました。
 最上階では、私たちが到着したのを見計らったようにスクリーンが下りてきて、短編映画の上映が始まりました。展示物についての説明などもあり、なかなか興味深い物でしたが、上映が終わった時、両親は眠っていました(笑)。

 約1時間弱で見学は終了。両親はどうか知りませんが、ここに来てスイス建国の誓いが行われたとされる「リュトリ」の草原に行ってみたくなりました。両親は、「着いて行くから好きな所に行け。」と言うので、受付にいる館長にリュトリは正確にどこにあるのかを聞いてみました。彼女によると、「ゼーリスベルク」から歩いていくとの事でした。
 ゼーリスベルクは、フィーアヴァルトシュテッテ(四森林州)湖がウルナー湖と名前を変える、「く」の字に折れ曲がった所の西岸に位置する小さなリゾートです。彼女は、一生懸命、丁寧に地図をくれたりして、車での行き方を教えてくれました。本当に親切な人でした。
 博物館を出た裏手に、道路をはさんだ反対側に教会があり、その側らにテルの礼拝堂があります。表の壁面にもありますが、中を覗くと、とても奇妙な壁画が目を引きます。縛られた人にたくさんの矢が突き刺さった絵です。勉強不足なもので、それが何を意味するのかまったく分かりませんが、キリスト教に関する物語、あるいは実際にあった出来事なのでしょうか?胸が痛いと言うか、何て残酷なんだろうと思いました。何故こんな絵を描くのでしょうか?私には分かりませんでしたが、日本の仏教にも恐ろしげな絵が時々ありますし、宗教の教えの一部なのだろうとは思いました。
 教会からはなかなかの展望で、ビュルグレンの村が一望出来ました。

教会から見たビュルグレン

 11時頃、ビュルグレンを出発しました。アルトドルフの街を通過し、すぐに左折、少し走って高速「N2」に乗りました。右手に湖を見ながらルツェルン方面に走ると、しばらくして9.3kmもある長いトンネルに入ります。トンネルの中から、外の湖の景色が見える事がありました。トンネルを貫けると、ウリ州からウンターヴァルテン州になりますが、ウンターヴァルテン州は、オプヴァルテン、ニトヴァルテンというふたつの半州から成っています。そのニトヴァルテン半州の「Beckenried(『ベッケンリート』と読むと思います)」という所で高速を降りました。
 そこから東へ約10km程の所にゼーリスベルクはあり、またウリ州になります。二車線の山道をグルグルと登ります。高速を降りてしばらくは左手に四森林州湖が見えていましたが、すぐに山の中に入り、湖は見えなくなりました。「エメッテン」という集落を貫け山道を走ると、今度は右手に湖が見えはじめ、ホテルや別荘のような建物が道に沿って現れました。
 正午頃、ゼーリスベルクに到着です。ここは846mの標高にあり、四森林州湖面の434mから約400mもの高低差があるので、湖の景色もなかなかのものでした。晴れていれば、さぞ美しい眺めだった事でしょう。
 高低差の大きい、ここと湖とを結ぶケーブルカーの駅がありました。駅前駐車場に車を停め、公衆電話から日本へ電話を入れた後、そこから歩いて行くというリュトリの草原へのハイキング標識を探しました。すると駅の傍らに標識がありました。スイスのハイキング・コースの標識は分かりやすく、大体の所要時間まで表示されていますが、ここからリュトリまでは、約40分となっていました。
 今からリュトリまで往復すると1時間半。ランチや母の歩速、休憩時間を考えると、3時間以上かかってしまうかも知れません。エンガディンへ行けずにあまった1日なので、どういう風にするかは自由なのですが、私のわがままで両親を長時間歩かせるわけにもいきませんし、天気も今ひとつスッキリしませんから、歩いても気持ち良くないかもしれません。ルツェルンに宿泊してもいいわけですが、両親は以前、ルツェルンを訪れていますので、どうせなら別の所の方が良いだろうと考え、心残りはありましたが、悩んだ挙げ句ここを立ち去る事にしました。

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